給与交渉は最初から高めを狙う

給与交渉は最初から高めを狙う

転職で一番気になることは何かといったら、それはやっぱり給与のことではないだろうか。ここでは、タイ現地採用において、給与交渉をどうやっていったらいいのかを考える。また、ここで提示する考え方はエージェントを通しても、直で企業に応募しても、どちらのケースでも通用するはずである。

 

給与交渉は最初から高めを狙った方が良い

 

最初に筆者の考え方の結論はこれである。給与交渉においては、最初から高めの給与を企業側に投げてみたほうが良いということだ。

 

タイで働く日本人の最低賃金は5万バーツとも言われているが、規制を掻い潜ってそれ以下で働かせる企業もあるようだ。企業側と労働者側の両方が合意していればいいじゃないかという話かもしれない。

 

しかし、給与の交渉の余地があるのなら、ダメ元でも最初に出来るだけ多く要求して、それが通ったらラッキーぐらいに考えたらいいと思う。

 

「そんなに高い給料はウチでは支払えませんよ」と企業側の方で言ってきてから下げればいいのである。

 

転職市場での適正な自らの市場価値を知る

 

といっても、闇雲に高い給料を企業側に要求しても通らないことを心配するかもしれない。とくに、タイで初めて現地採用転職をする場合は猶更である。

 

そういうときは、信頼できる人材エージェントを見つけて、「自分の経歴だったらこれぐらいの給与ならいけそうか?」という本音をぶつけてみるに限る。

 

エージェントによっては、「あなたは自分の市場価値を分かっているんですか?もっと、低い給与で提示しないと書類選考で落とされますよ」などと諭してくる場合もある。そういうエージェントは求職者を一人でも多く企業に売りたいという思惑もあって、そういう言い方をしてくるのだということを考慮したほうがいい。

 

話の分かるエージェントになれば、こちらが想定した給与よりも1万バーツアップで、企業側に交渉してくれるようなこともある。

 

(エージェントにとっても人材が高い給与で売れれば売れるほど、企業からもらうコミッションも高くなるので、「高めを狙う」ことは決して悪いことではないはずだ。これについては、その時の転職市場動向や、個々の人材のスペックによっても変わってくることだろう。筆者はあくまで、「企業を受ける人材側」、「応募者」の視点から、給与交渉は高めを狙おうと言っているのである。)

 

入社してからの努力で、会社から評価されてサラリーアップを狙う考えについて

 

最初は少ない給与でも良いから仕事を頑張って結果を出して、昇給を狙うという考えもある。それはそれで別に間違っていない。そうやって仕事に対してひたむきに取り組んで、実績を積み重ねていけばスキルも身に着くだろうし、転職市場での評価も上がるだろうからだ。

 

しかしながら、この考え方がリスキーなのは、「ブラック企業の餌食にされやすい」ということである。

 

アジアで働くなら薄給で働くのはリスクが大きすぎる

 

筆者がこんなにも転職における最初の給与交渉の大切さを説くのは、自らの過酷な経験があってのことである。

 

私はタイでの就業を終えたあとに、ベトナムの某メディア企業で勤務した経験があるのだが、そこがまさしく、「東南アジアのブラック企業」という名前をつけるに相応しい企業であった。

 

試用期間での給与は1000USD以下であった。こんな安月給では家賃と食事に金を払ったら、雀の涙ほどの金しか残らないではないか!と一人憤慨していた。

 

その企業にお世話になったのは短い期間ではあったが、薄給の身がいかに悲惨で、人間をどれだけ惨たらしい気分にさせるかについて身をもって体感したのである。

 

ブラック企業というのは労働者を働けるだけ働かせ、搾り取るだけ搾り取る。高度な「サボれない仕組み」が完成されており、一分一秒たりとも休む時間が無く、会社に利益を与えなければ、あるいは成果を上げなければ労働者は生き残れない環境が整っていた。

 

ITの力を借りなくても、労働者の逃げ場を無くして追い込みをかけて管理することは可能なのだと、その企業のやり方に驚嘆したものである。労働者を管理して、自分の思い通りに動かし、私利私欲の追求のために使役するのに、恫喝も、肉体的暴力も必要無いのである。私は類まれなるアジアのブラック企業の経営者のその経営手腕に脱帽する思いであった。まあ、それについての話はまた別の機会に書くことにする。

 

筆者はその企業に勤務した後に、「もう二度とブラック企業に雇われてはならない」という強い決意を持って企業を去ったのであった。

 

好きな仕事をしていれば安月給でも我慢できるか

 

世の中の全体の傾向として、理系の仕事の方が文系の仕事よりも稼げる。安定度で言うと製造業が一番だと思う。

 

メディア関連のクリエーターとか、ライター、編集みたいな仕事というのは、確かに面白いかもしれないが、その代償として労働者が企業側に安く買いたたかれるような印象がある。トップの企業や、才能あるごく一部の人は別として、業界全体であまり給与が良いとは思えない。

 

ましてやアジア現地採用である。魑魅魍魎が跋扈し、中小企業にとっては企業側に都合が良い論理がまかり通るアジアという地においては、ブラック企業の経営者は日本よりもそのブラックぶりを発揮できるに違いない。

 

だが、先述のブラック企業において、かつての同僚からこんなことを言われた。

 

「好きだから今の仕事が続けられているんですよ!」

 

私はその同僚が水を得た魚のように生き生きと職場で仕事をしているのを身近で見て知っていたし、その人は本気でその仕事が好きでその職場で働いているんだろうなと想像した。

 

そういう人にとっては私の言うことなど、まったくもって無意味だろうし、サラリーを度外視して、好きな仕事に邁進するというのは立派な生き方だと思う。

 

ただし、ある仕事に対しての並大抵の「好き」とか、「興味がある」という度合いでは、ブラック企業での就労には耐えられないのではないかとここに改めて記しておく。

 

好きでも無い仕事を仕方なくやるなら給与は高い方が良い

 

これを読んでいるアジア現地採用志望の読者の方々の中にも、ネットでアジアの求人を眺めてみるなどして、あるいは、人材エージェントから紹介された求人を見たときに、

 

「あーあ、なんかどれもこれもパッとしない。つまらなさそうな仕事だ。どれもこれも興味が湧かねーや!」

 

などと思ってしまうことは無いだろうか。
まあ、そういうことがあっても致し方ないと思う。ある人にとっては無理矢理、努力しようなどと思わなくても自然と寝食を忘れて取り組める仕事であっても、別の人にとっては全く興味が湧いてこないなんてことはよくあることだからだ。

 

「世の中に出たら幅広い分野に興味を持った方が良い」などという良識派の意見は多分、役に立たないはずである。興味の範囲が狭い人にとっては、スタートの時点でいくら興味を持とうとしても持てないからである。

 

それで、「仕事内容」にこだわるなら、はっきり言ってアジア就職を目指すよりは日本で仕事を探した方が良いと思う。アジア就職というのは、国によっても多少の違いはありこそすれ、どうしても業界の偏りがある。職種の種類も少ない。

 

「ま、しょーがねーや。全然この仕事には興味無いけど、タイにいたいからな。とりあえず、応募すんべや!」

 

企業側にとっては応募してきてほしくない人材かもしれないが、これぐらい軽い人材はおそらくアジアには大勢いるだろう。こういう本音は普段は公の場では絶対に明かさないものだが(明かしたらサラリーマンなど勤まらないだろう。社交には虚偽が必要不可欠である。)、潜在的に、あるいは無意識に不平不満を抱えているものである。

 

そういうわけで、どうしてもやりたい仕事がアジアで見つからない、でも、アジアにいたい、どこかで就職するしかないとなったときに、だったら、出来るだけ最初の給与交渉では強気に出ておいた方が良いという話であった。

 

そもそもやりたくない、興味の無い仕事だが薄給にも甘んじて入社してしまった。そういう仕事ではやる気も出ないだろうし、入社してから頑張って評価を上げて給与アップを狙うなどというのは難しいことになるだろう。