転職後、早い時期に上司や同僚に自分の仕事観、価値観を開陳しない方が無難

転職後早い時期に周囲に自分の仕事観、価値観を開陳しない方が無難

会社員としての生活というのは煎じ詰めると人間関係の良しあしということになってくるだろう。世の中には自分と合う人、合わない人がいる。善人も悪人もごったまぜになった魑魅魍魎の世界というのが職場である。そこでは絶対的な正義は存在せずに、ともすれば弱肉強食の壮絶な生存競争が繰り広げられる、、、。

 

そういう過酷な職場であるから、転職後は出来るだけ早く、自分と気の合う仲間や友人が出来たらと思うのは人情だろう。「会社には仕事をしに来ている。仲良しごっこをしに来ているのではない。仲間など不要だ」と言い切れるだけの強い人もいる。だが、そういう人ばかりでもあるまい。

 

早く友人が出来ないかなあと転職後、考えてしまうのは致し方ないことだ。

 

職場での友人を増やそうと思って、筆者の場合、ついついやってしまいがちだったのが、自分の仕事観や価値観を上司や同僚に開陳してしまうことであった。

 

筆者の考えは割と日本人のおそらくDNAレベルで刷り込まれている勤労の価値観と100%相反するものである。すなわち、

 

仕事だるい
朝、会社に行きたくない
出来るだけ楽をして金を稼ぎたい
社内ニート万歳!
今日も仕事せずに1日の給料分稼いだぜ、オーイエイ!
もっと楽な仕事がしたい!
成長? 成長って何ですか?成長したくないんですけど

 

などなどの勤労意欲が著しく低いと思われてしまうような発言を、職場の人に対してしてしまうのである。

 

これは今振り返ってみても、あまりにもナイーブが過ぎる職場での振る舞いである。

 

同じように労働忌避の価値観を持った人だったら、私の発言に賛同してくれるだろう。とくに、タイで働くような日本人の中には、ニート気質で、ゴクツブシかつゴロツキみたいな要素を持った人も少なくないから、そういう人と職場で出会って、本音で労働観を表明できれば、これぐらい嬉しいことは無いわけだ。

 

だが、アジア現地採用に限らず、駐在員も含め、とにかく日本人の労働者というのは、アジアに出てきていても、日本での仕事観や価値観を引きずっていることがほとんどだ。アジアで働くときに日本人の絶対数が少ないために、どうしても日本的な対応を求められることもあって、日本的な考えを捨てきれないこともあるだろう。

 

また、アジアにまで来て働こうという日本人というのは、自己の能力に対しても自信を持っていることが多いらしい。「仕事を頑張ってスキルアップする」とか、「頑張って起業する」みたいにえらくポジティブで健康的な考えを持っている。

 

「会社での仕事はそこそこやればいいや」みたいな中途半端な考えは許容されないことが多い。

 

職場で特に気を付けるべきは日本人女性

 

気を付けなければならないのは、アジアに出てきている日本人女性である。筆者がベトナムの某メディア企業で就労したときにも、今思い出すと冷や汗モノの経験をしたことがあった。

 

その会社は日本人女性が多かったのであるが、女性たちはおしなべて真面目だったし、考えていることの方向性がスキルアップやキャリアアップということのようであった。あるいは、自分のスキルが活かせる場所があるから、その会社で働いているらしかった。

 

そういう女性たちの前で、ちょっとさばけたというか、少し抜けているけど話しやすい男性みたいなのを演出しようという意図もあり、労働忌避の発言をしてしまったものだから、基本的に仕事が好きな女性にとっては、私のような人間は唾棄すべき、文字通りのアジアのロクデナシ日本人男性ということになってしまったらしい。

 

真面目な日本人女性たちの前で、チャラチャラしたというか、ちょっとでも隙を見せて、労働忌避の価値観などを語ってはダメなのである。仕事以外のことでいくらふざけたことを言っても良いかもしれないが、仕事のことについて茶化したり、会社のことを愚痴ったり、批判するのは良くない。

 

これは女性の方が本音と建て前を使い分けるのがうまいということもあるだろう。世の中で、あるいはその職場で支配的になっている価値観や思想を読み取って、それに適応した発言しか許容せず、そこから外れた非常識な意見を聞くと嫌悪感を示したり、一気に職場の女性たちの敵のような態度を見せてくるのが、そうした女性たちなのだ。

 

まあ、これは日本人女性にばかり当てはまることではない。職場で働くローカルのスタッフの女性たちにも当てはまることだ。どんなに彼女たちが気さくで話しやすい連中だと思っても、彼女たちは仕事に対しては真面目であることがほとんどだ。仲良くなっていない段階で、仕事の愚痴、会社批判などを言ったりしたら嫌われる原因になる。

 

仕事が一番大切!というアピールをしていれば間違いは無い

 

基本的には、転職して間もなくというのは、「仕事が第一」、「ワークライフバランスよりも仕事が大切!」みたいな考え方の持ち主を演じるぐらいでちょうど良いと思う。まあ、あまり仕事、仕事と言って会社の周囲の人間に対してパフォーマンスをする輩というのは、わざとらしいと嫌味に感じさせることもあるので注意が必要だが。

 

たとえば、ベトナムの外資系企業にて働いてたときに、日本人の同僚の赴任者がとあるお客さんとのミーティングの席で言っていたことをここで紹介しよう。そこには日本の社長も同席していた。

 

その人はホーチミンで会社からあてがわれた高級コンドミニアムに住んでいるらしく、筆者からしてみればうらやましいことこの上なかったのだが、その人いわく、

 

住んでいるコンドミニアムにはでかいプールがついてますが、(仕事が忙しすぎて)まだ一度も泳げていませんよ

 

ということであった。

 

ああ、なるほど、仕事人間として、うまいアピールの仕方だなと思った。社長にしてみれば、自分がベトナムに送り込んだ社員が、仕事もロクにせずに自社で用意したコンドミニアムのプールで、毎日泳いで運動に励んでいたとしたら、あまりいい気持ちはしないだろう。ワークライフバランスという新しい価値観に対して、本当に寛容な経営者というのはあまりいないのではないかと思われる。どの経営者も自分の従業員をカネを払った以上、働かせたがるものだ。投資した分は回収したいと思うだろう。

 

だから、この同僚の赴任者の、「仕事が忙しくて自宅のプールでは泳いだことが無い」という発言は会社員としては100点満点だと思った。

 

その発言が真実かどうかはともかく、お客さんとのミーティングの場で、そこにいる参加者の誰もが傷つかず、嫉妬の感情も湧いてこず、あまつさえ、「プールで泳げないのか、そりゃあ、気の毒だな。そんなに仕事が忙しいのか!」みたいな同情の気持ちさえ浮かんでくる。

 

とくに経営者に対しては、「忙しいアピール」、「仕事のプレッシャーが大きくてしんどいアピール」みたいな各種のアピールを定期的に行なう必要があるだろう。

 

結局のところ、価値観の異なる多様な人間が寄り集まった職場という空間を生き抜くには、人間性を偽装しなければならないのである。