タイ現地採用、営業職希望の場合、どの業界を選ぶべきか
この記事はタイ現地採用が初めてで、これからどの業界を選ぶか悩んでいる人向けに書いている。なおかつ、営業職希望で下記のような条件が当てはまる人であれば、タイ現地採用の転職において注意しておかねばならないことがいくつかある。
- 文系出身者
- 製造業は未経験
タイ現地採用の業界の種類とその概要
- 製造業、メーカー
- 商社
- IT
人材紹介会社に登録に行くと、だいたいこの三種類のうちのどれかを紹介されることが多い。これらの特徴について見て行くことにする。
製造業、メーカー
タイといえば自動車生産は有名であり、また日系自動車メーカーはタイの市場でもそのトップを占める。フォードのような米系企業もあるが、その市場占有率は低い。タイでの日系自動車メーカーのプレゼンスは圧倒的なのである。
一説によると、ひとつの自動車は30,000程の部品で構成されるといわれる。そのため、有名どころのトヨタとかホンダといったメーカーだけではなく、自動車の小さな部品を作る下請けメーカーというのが無数に存在するのだ。
有名自動車メーカーをピラミッドの頂点として、Tier1メーカー、Tier2メーカー、Tier3メーカーという風に、数多くの企業がある。(ちなみにTier1は「ティアワン」と読む。余談だが、これを筆者は「ティアイチ」と読んで、某大手IT企業で働いていたときに上司から、「それティアイチじゃなくて、ティアワンだよ!」という指摘を受けた。)
自動車部品産業というのは、このように産業の裾野が広い。タイの国策としても、自動車産業をもっと育てて行きたいという思いがあるらしい。
だからこそ、タイで営業職の現地採用として、どこかの企業で働く場合には、自動車部品産業を勧められることが多いのである。
自動車部品を生産している企業はまともな会社が多い。ワークパーミットの申請だってタイの役所に行ってものの5分で終わったりする。それだけタイ政府から信頼されているし、雇用も安定しているということだ。
タイで長く働いて行こうとするなら、自動車産業に関連したメーカーで働くというのは一つの有望な選択肢になる。
だが、ちょっと待って欲しい。本当に自動車産業に進んでいいんだろうか。最初に述べたように、「文系出身者で、製造業は未経験」という場合、メーカーに入ったらとてつもない苦労を背負い込むということを覚悟しておいた方がいいだろう。
たとえば、自動車部品を売る営業マンになった場合。顧客から見積もりの依頼を受けて、自動車部品の図面を読むことからしなければならない。
この「図面を読む」というのが文系出身者には相当高い壁として立ちはだかるのである。
図面というのは、もともと3次元の物体が2次元の図面であらわされたものである。2次元の図面から3次元の完成した形を想像できなければならない。空間把握能力といったらいいだろうか。
これが思ったよりも難しいのだ。筆者は私立文系の大学を卒業しているが、小学校、中学校、高校と理数系は大の苦手であった。大学受験は受験科目として数学や理科が要らない私立文系を選んだ。数学や理科はこれまでの人生でずっと避けてきたのである。
それぐらい苦手意識が強かった理数系であるが、タイに来て仕事で使うことになるとは全く思ってもみないことであった。
タイで最初に入った精密プレス部品を生産する工場においても、図面を読んで見積もりを作ろうとしたがやっぱり駄目であった。何しろ機械系の仕事というのは曖昧さが一切許されない。
上司であった工場長に、「これであってるでしょうか?」と出来上がった見積書を持って行っても、「間違ってるよ、全然駄目だな」と突き返されることがしょっちゅうであった。
また工場では図面を読むだけではなく、製造業特有の仕事のやり方というものが存在する。これも未経験だったらゼロから勉強する強い意志がなければならない。
製造業の営業というのは「専門家」を相手に商売をしなければならないということだ。BtoBの法人営業というのは得てしてそういう部分があるかもしれないが、製造業の営業の場合とくにそれがあてはまる。自動車部品を売るにあたっては、自社工場で作っている製品のことについてよく知っていなければいけないし、商品のこと、製造業全般のことを知っていなければお客さんのところに行っても商談が出来ないのである。
それでもタイで製造業の営業に就きたいだろうか。もちろん、業務内容がきちんと理解できて仕事が問題なく遂行できれば問題無い。メーカーというのは他の業界とくらべるとホワイトな企業が多いようだ。会社から際限なく残業を強いられるようなことは少ない。休みもしっかりと取れることが多い。
要するに、休日出勤をしてたくさん仕事をしたとしても、それによって短期間で売上が大幅にアップするような業界ではないのである。たとえば、1個の自動車部品の受注をするのだって、簡単には行かない。何年もかかってやっと受注できるということもざらにある。
見積書を何枚も作って顧客に提出しても、ただ単に見積書を提出しただけ、顧客からは相見積もりの材料として見積書を要求されていただけだったなんてこともよくある。
だから、メーカーというのは気長にコツコツと努力できる人が向いていると思う。一攫千金とか、短期間で仕事で結果を出す!とか考えている人にはあまり向いていないはずだ。
商社
商社かメーカー、どちらに行ったらいいか?という話になったら、選べるのであればメーカーを選んだ方がいいだろう。商社というのは、割合、長時間労働を会社から強制されるケースが多い傾向がある。いや、会社からの強制の有無に関わらず、仕事の量が多くなってしまうことがある。
私はタイローカルメーカーで、商社に近い日系メーカーの代理店に勤務したことがあった。
その会社で上司から勤務実態を聞いたのだが、営業車を自分で運転し、バンコクからコラートまで週三日も往復することがあったという。
バンコクは朝の4時、5時に出発し、コラートでの業務を終えて家に辿り着くのは夜の11時。それからメールのチェック、返信、その他事務作業を終えることには午前12時をまわっているという過酷さである。
もちろん、すべての商社の仕事が大変というわけではなく、中にはゆるい商社もあるかもしれない。それは入ってみないと分からない部分だが、全体的な傾向として、商社と名が付く会社に入る場合にはかなりの覚悟がいるということだ。
ただ、商社に入っておけば、タイで働いて行く上でのスキルアップは出来るだろう。見積書作成、納期管理、タイ人部下のマネージメントなど、、、これらはメーカーにも共通する仕事だが、入った会社がもし自分に合わなかったとしても、実務を習得しておけばタイで転職可能な人材になれる。
IT
IT関連の求人は主にバンコク中心部に見られる。アソークやシーロムなどのオフィス街に会社があることが多く、見方を変えれば、仕事以外には夜遊びをメインにしてタイ生活がしたいという向きにとって、IT関連の企業にもぐりこむのは理にかなっているだろう。
筆者が在籍していたアソークにある某日系大手IT企業においても、行こうと思えば平日でも夜遊びに繰り出せたというのは大きな楽しみであった。田舎の工場で平日鬱々とした日々を送り、気分をスカッとさせるには週末しかないみたいな日々を送るのはちょっとキツいなあという人にとっては、転職先の企業を決める上で「気分転換の場所が家の近くにあるかどうか」というのは相当大きな要素になると思われる。
それはさておき、前置きが長くなってしまったが、IT業界の営業というものは一体どんなものであろうか。
IT業界は一言でいえば、「ITが理解出来ないと思ったら避けておいたほうがいい」ということだ。IT関連といっても範囲が広過ぎるけれども、世の中にはITが得意な人とそうでない人がいる。
「パソコンなんて普段使っているから大丈夫さ!」
こんな風に考える人もいるかもしれない。筆者も割とIT業界を甘く見ていた一人だ。とくに、筆者は自分でホームページ作成をすることもあるので、ウェブの知識は全くその分野について知らない人よりは多少あるだろうと思っている。だが、IT業界は理解しておかねばならない知識というのが半端無く多い。
IT未経験でIT業界の営業職に就いた場合。システムの開発、売り込みなどの実務にすぐに適応出来るだろうか。この場合、システムのことが理解出来なかったら終わりである。システムを理解して、自分の言葉で説明し、顧客に分かりやすく発信することが出来るまで、システムに精通していなければならない。
また、IT業界ではこの業界独特の「はったり」のようなものも駆使出来なくてはならない。
プレゼンをするときにも、頭脳明晰そうな、エンジニア出身なんじゃないかこの人は?と思わせるような話し振りとか、言葉遣い、話術を駆使出来た方がいい。
それが出来ないと、悪い言い方をすれば、「顧客に舐められる」ということになる。顧客だけではなくて、社内のエンジニアからも舐められ、仕事がやりにくくなるだろう。
それから、IT業界の営業職の場合には、プロジェクトマネージメントも引き受けねばならないケースも出て来る。これをやるとなると仕事の大変さは増す。社内調整業務も綿密にやらねばいけないし、中には頑固で融通が利かず尚かつプライドの高いエンジニアをなだめて、うまく業務を進める必要のあるケースも出て来ることだろう。
そういった諸々の業務をやっていくと、IT業界というのは他業界とくらべても労働時間がどうしても長くなってしまうということなのだ。
人材紹介会社から送られて来るIT関連の求人を見ると、大抵「土日祝完全週休二日」の会社が多い。確かに土日は休めるのだろう。だが、業務が終わらなければ、風呂敷残業のように、パソコンを家に持ち帰って家で仕事をしなければならないこともある。
まとめ
製造業、商社、IT、これら三種類の業界についてざっと見て来た。いかがだっただろうか。
「そんなことないよ。ウチの会社はもっと楽だよ!ゆるく働かせてもらってます!」
という人もいるかもしれない。そういう人はラッキーである。
かなり内容が偏向していることはよく承知している。ただ、一つだけ確かに言えるのは、タイだからと言って、未経験の業界に飛び込んで仕事をしていくというのはかなりの程度の苦労が伴うという事実である。
仕事と会社が自分にとって合えば、製造業が一番安定して、長く勤務できる可能性が高いと分析しているが、それはすべての求職者にとって決して当てはまらないことだ。
そのため、自分の得意分野や、できることを見極めて、就活を行なうのが大切だとあらためて考える次第であった。
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