営業マンは上司や社長を安心させられなければ、外回りも自由に出来ない

営業マンは上司や社長を安心させられなければ、外回りも自由に出来ない

外回り、、、営業マンにとっては甘美な響きさえする言葉ではないだろうか? 会社員は決まった時間に出社し、夜遅くまで社内に幽閉されて会社のために働くのを強制されるものである。内勤の会社員というのは、隣の席の男の体臭や貧乏ゆすりが気になったとしても、それを理由に席替えしてもらうことは難しいだろう。昼下がりに居眠りしたくても必死に眠気を押し殺したり、トイレで仮眠を取ってやり過ごしたりする。

 

それが日本人の会社員人生だ。そうやって日本人が一丸となって会社に対して献身的な奉仕を続けてきたからこそ、日本は戦後の焼け野原からの驚異的な復興を遂げて、世界でも有数の経済大国へと伸し上がれたのである。

 

そういう論調の話というのは決まって、「それにくらべて最近の若いサラリーマンはなってない!俺の若いころはな、正月休み以外は会社を休まなかったよ」みたいな苦労話・武勇伝につながっていくことが多いわけだが。

 

それはさておき、過去の日本の企業社会においてとくに支配的であった価値観、働き方というのは、必ずしもすべての業界において当てはまるとは限らない。

 

とくに、営業の世界というのは伝統的に労務管理が緩いものである。

 

ほかのオフィスや工場労働というのは、出社したら周りの人間の監視の目におかれることが通常であって、仕事をするフリをしてサボることは可能であったとしても、さすがに大っぴらに昼寝をするなどは難しいことだろう。

 

営業職ともなれば、朝、出勤して、「行ってきまーす!」という元気な挨拶をして会社を出たら、すぐさま喫茶店に行ってサボることも可能なことが多いのではないか。あるいは、公園に行ってサボる、ゲームセンターに行く、家に帰るなどなど、サボりの手口は枚挙にいとまがない。

 

そうやって「営業マンはサボれるものだ。自由な仕事なんだ」ということを営業マンは経験上学習しているので、そういう自由なワークスタイルを好んで、タイに来ても営業職を志望する人は多くいそうである。

 

ここで、気を付けなければならないのは、上司や社長対策である。

 

とくに、社長のすぐ近くで働かなければならない営業マンは十分に注意した方がいい。社長という人種は部下のサボりに対しては厳しいものである。人材に対して金を投資したという意識が強い。金を払った以上は会社に貢献してもらわないと困る、投資した資金は確実に回収しなければと考える。

 

これは金を払う側にしてみたら当たり前のことなのだが、せっかく雇った営業マンが面従腹背のとんでもない食わせ物で、自分の前では真面目に働いているフリをしているが、自分の見ていないところでは、サボりまくっているみたいな状態が、社長にしてみたら許せないのである。

 

以前勤務していたタイローカル企業では、若手タイ人社長の疑心暗鬼は相当なものだった。その会社ではとある日本製の産業機械を日系メーカーから卸して、タイの工場に販売していた。上司だった日本人から聞いた話だが、新人の営業マンに貸与された営業車にはGPSと盗聴器がつけられるという。嘘か本当か分からない話だが、さもありなんという気はしたものだ。

 

人間は放っておいて、手綱を緩めれば際限なくサボりまくるとでもその社長は思っているのだろうか。

 

営業マンとしてのびのびと自分のペースで働きたいと思ったら、まずは上司や社長を安心させることが先決である。人間的に信用されていない状態で、ちょっとでも隙を見せて、外回りをしたらサボりそうな振る舞いも言動もすべきではない。社内では、「フーフー!」とでも言いながら息を切らせて、早歩きで(社員がのんびり歩いているだけで気に食わない社長もいるものだ)、常に厳めしい顔をしながら、身体全体を使って、「仕事が人生のすべて!」という演出をしなければならない。

 

新しい会社に入社して間もない段階では社長に信用されるのは難しい。営業マンなら売り上げを立てて、結果を出すことが一番わかりやすい会社からの認められ方なのだが、商材や業界によっては、すぐに結果を出したくても出せないケースもある。とくに、法人営業は商品自体が高額で、自分が仕掛けた商売の取引が実際に開始されるのにも時間がかかったりする。

 

そういうときに、のほほんとマイペースで過ごすのは危険である。社長によってはその入ったばかりで結果が出ない部下を、「給料分の仕事をしていない」と見做すこともあるからだ。

 

では、どうやって社長を安心させ、信用させるか。

 

ひとつは、忙しいフリをすることである。忙しすぎてパンパンで、心身に負荷がかかりすぎてしんど過ぎる!みたいな状態に陥っているというアピールが重要である。「そんなに忙しいか、そんなに頑張っているんだな、よしよし、金を払っただけのことはある」、、、という風に考えてくれたらしめたものである。

 

社長を同情させることが大切だ。社長というのは多かれ少なかれ「仕事の鬼」みたいな人が多い。無能で努力しない人が社長になることは少ない。ひたむきに努力している部下の姿、病気になりそうなぐらいに仕事で苦しんでいる部下の姿には心を動かされるものだろう。(といっても、本当に病気になる必要は無い。映画、『カッコーの巣の上で』に出てくる主人公の男みたいになってしまうだろう。)

 

もう一つは、定期的に質問や相談を持ち掛けることである。入ったばかりの転職者であり、業界の未経験者だったら特に積極的に社長に仕事上の質問や相談をするといい。「そんなこと自分で考えろ!」みたいに無碍な対応をする社長は少ないだろう。とくに、相談された方は悪い気はしないものだ。社長という人種は、頭の良さや仕事が出来るといった特性だけではなくて、懐の広さとか、人間的なスケールの大きさでも他人から評価されたがっている。そういう社長の弱いところをくすぐるのが、相談という形式を装ったゴマすりコミュニケーションなのである。

 

一番まずいのはただただ恐縮して遠慮していたり、謝ってばかりいることである。恐縮した態度に対しては、「おお、ワシが怖いか、そうか、そうか!」といって、社長のオーラに畏怖しているのだと感じることもあるだろうけど、入社してからいつまで経っても社長に遠慮したままだと、それはそれで、「消極的で面白くない奴だ!」ということになってしまう。

 

下手に出ているだけだと社長が増長してモンスター化することもある。社長の嗜虐性を刺激してはならないのである。

 

ちなみに筆者は自己評価をするとすれば、これまで書いてきたようなことは実践出来ていない。社長というのは人間観察の鬼である。よく部下を見ている。社長を懐柔するのは難しい。

 

ただ、社長の懐柔に成功しさえすれば、フリーランスでリスクを一人だけで背負って生きていくよりは、よほど、安楽なサラリーマン生活が送れるだろう。ほとんど会社に利益をもたらさない営業マンであっても、社長に好かれていれば飯だけは食っていけるというものである。

 

そういうわけで、読者の皆さんには、タイで社有車貸与の営業職の求人に合格し、晴れて外回りの営業職に就いたとしても、内定を取って入社しただけでは満足せず、そこから会社での立ち居振る舞いに気を付けて、社長や上司からの信用をまずは勝ち取ることを目標に頑張ってもらいたいものである。

 

一度、信用を勝ち取ってしまえば、ビッグシーの駐車場に車を停車させて、社有車のシートを倒してグースカと昼寝をしてようが自由である。

 

(余談だが、日本だと会社のロゴマークがついた社有車で、どこかに車を停めて昼寝したりしていると、周辺の住民から苦情の電話が会社にかかったりする。当然、会社の評判にかかわることで、昼寝をしていた社員は大目玉を食らうことだろう。

 

だが、タイの場合、筆者も含めてだが、周辺住民から「あんたのところの会社の従業員が駐車場で昼寝してたよ!」みたいなクレームが入ったなどという話は聞いたことが無い。やはり、タイ社会というのは、おおらかであると思う。見ず知らずの他人の振る舞いに対しては目くじらを立てないということだろうか。)