未経験で中途入社の場合、半人前扱いされることにどう対処するか
未経験でタイ現地採用としてどこかの会社に入社したとする。そのときに、仕事が出来なければ確実に起こるであろう周囲の日本人からの「半人前扱い」。要領よく新しい職場の仕事や環境に適応して、給料分の仕事をしているという風に見なされれば問題無いが、そうじゃないケースの方が多いはず。
そうした場合にどんなに苦しくとも、人知れず悔し涙を流しながら仕事と職場に立ち向かっていくのが健康的な日本人の姿かもしれない。
だが、筆者のように周囲からの半人前扱いがどうしても我慢できず、会社を飛び出してしまう人もいる。ここでは、私の個別のケースを扱いつつ、それらに対する内観と、読者の皆さんがどうやって半人前扱いを克服していったらいいかを提示する。
プレス工場での半人前扱い体験
筆者の最初の転職先は、アユタヤの精密プレス部品工場であった。ここでは完全な未経験でプレス工場の営業という仕事に挑んだのであった。
「何とかなるだろう」という甘い期待もあったが、実際にやってみると工場の営業という仕事で、いかに仕事が出来ないかということを身をもって知ることになった。プレスのことについて何も知らなければ、工場のことについても知らない。
そうなるとどういうことになるか。上司から指示される前に自分で考えて動くということが出来なくなってくるわけだ。
指示待ち族ならまだ良い方であって、時間が経過しても改善されない場合には、社内ニート化していき、仕舞には会社に居にくくなって自ら退職を選択するというパターンに陥るに違いない。
当時の同僚の生産管理の日本人の方は良い人だったけれど、厳しいことを言う人でもあった。
「〇〇君は赤ちゃんみたいだね。製造のことも工場のことも何も知らないんだね」
こんなことを言われたのを今でも覚えている。私はその言葉に対して激しい憤りを覚えると同時に、自らがその職業を選んでしまった以上、彼らの土俵で闘わねばならないのだということを思い知ったのである。それは自身の無力感へとつながるものであった。一朝一夕の努力で、メーカーに長く勤務しているような人たちの知識や経験を上回ることは不可能だからである。
周囲の人間から半人前として扱われる状態を、一体これから何年間甘んじて受け入れなければならないのか?という失望感があった。
経験が少なく仕事が出来ない場合、思わぬところから攻撃されることもあった。その工場には提携先として樹脂屋がいて、そこには同い年の駐在員の営業マンがいた。
出会って始めの頃こそ、お互いに同い年ということもあり何もなかった。
だが、3か月過ぎた頃だろうか、その営業マンは私に対して口撃を加えてきたのだった。
「〇〇さん、あのね。真面目に仕事やってるの? 現地採用だからって適当に仕事してるんじゃないの?あんた、入社して何か月経ったと思ってんの?」
電話でのやり取りだったが、一応、その樹脂屋は“お客さん”だったこともあって、言い返すこともできなかった。
彼は日本的な職業的な倫理観を堅持した、非常にまともな駐在員だった。同い年の現地採用とタイで遭遇し、その現地採用の仕事ぶりが目に余ったから、他社の人間だけど、彼にしてみたら「ちょっとお灸を据えてやろう」とでも思ったのかもしれない。
全くもって余計なお世話である。ああやって、「仕事」というものを錦の御旗にして、他人を攻撃したり、自分を高く見せようとするような人間が一番困る。
私が自分の所属していた会社でいくらボンクラ社員だったところで、彼のいた樹脂屋にとっては何の関係もないだろう。
タイ現地採用をしていたら確実に「日本人ビジネスマンの生存競争」というモノに巻き込まれるということは覚悟しておいた方がいい。スローライフでいい、ワークライフバランスが大事なんて思っていても、日本人駐在員の「自分たちの価値観、仕事観を押し付ける求心力」を決して舐めてかかってはいけない。現地採用として生きていくあなたはそうじゃなかったとしても、日本人駐在員たちは骨の髄から会社至上主義で凝り固まっていることが多い。
射出成形工場では上司に歯向かった
転職して5社目の射出成形工場でも、やはり半人前扱いはひどいものであった。
私はその工場での半人前扱いに日々耐えながら、我慢に我慢を重ねて仕事をしていた。網走番外地並みに我慢していたかもしれない。
だが、私は直属の日本人駐在員に歯向かってしまったことがあった。その上司は指導をする際に、「部下の発言を否定し、逃げ道をふさぐ」ようなやり方だったので、私も耐えられなくなったのだ。
始めは耐え忍んでいた。だが、それはある日突然やってきた。
「もういいよ!もうたくさんだ!」
私は机をバン!と叩いて、立ち上がり上司を思い切り睨みつけた。
「辞めてやるよ、この糞野郎! 散々、舐めやがって」
私が怒鳴りつけると、上司の方も落ち着いており、決して怯んだ態度は見せなかった。
「そうか、わかった。じゃあ、どうする。辞めるか?」
そう聞かれたとき、数秒間だろうか私は考えた。今持っている金じゃあ、タイでの転職活動もままならないだろう。日本に帰るのだけは避けたい、どんなにつらくてもあと半年は耐えねばならない!
「すみません。怒鳴ったことを謝罪させてください。」
私はどんなに悔しかったかわからないが、怒りをおさめて上司に謝罪した。上司の方も、
「そうか、わかった。今回の件は俺のところであずかっておく。上には報告しないからな。」といい、許してくれた。
そのことがあってから、上司の自分に対するアタリが柔らかくなった。「逆らってくるとは根性があるやつだ」という風に感じてくれたらしい。人間というのは複雑なものである。男同士というのは割とそうやって、単純に拳と拳をぶつけ合うことで理解しあうこともあるので、不思議なのである。(女性の場合はそう単純ではないが。)
余談だが、その会社で飲み会があって、私は自己紹介のときに、
「流れ者ですが(職を転々としてますが)よろしくお願いいたします」とあいさつした。
一瞬、宴席の空気は凍り付いたように感じたが、何人かの笑い声がおこったので、理解してくれた人もいたらしい。
そのとき件の上司は自分の部下である私のことについて、
「もう二度と流れ者にはさせない。流さない!(俺が責任を持って面倒を見る)」と心の中で決めたそうである。
私は上司から直接その言葉を聞いたときは感謝感激して、言い表す言葉もなかった。この人はそんなにまで私の行く末を案じ、心配してくれていたのだ、と。
しかし、そんなことがあってから3か月後に私は辞表を提出していた。喉元過ぎればなんとやらというが、会社員同士の付き合いなど偽装に過ぎず、あらゆるものが嘘っぱちで演技に過ぎないということを改めて学んだ次第であった。
半人前扱いされても気にしすぎないこと
以上が私の実体験である。現地採用で働くときに一番大変なのはこういう部分だろうと思っている。すなわち、駐在員から半人前扱いされることだ。
彼らは狭い専門分野で秀でているかもしれない。そして、あなたは自分がこれまでやってきた仕事が、タイでの新しい仕事で活用できないかもしれない。
そういうときに、嫌味や口撃を受けるのは致し方ないのである。そうやって彼らの多くは優越感を感じて悦に入って得意がるだろうし、「だから、現地採用はダメなんだよ」みたいに駐在員同士で悪口を言い合うだろう。
現地採用の立場は弱いので、駐在員に逆らったら私のように、「辞めるか、謝罪して残るか」みたいな選択を迫られるだろう。
そのため、どんなに屈辱を受けても残るという選択をするなら、気にしすぎないことが大切になってくる。会社としても、経験の浅い人材を雇うことには意味がある。
それは将来への投資として雇っている部分があるから、「現地採用が即戦力ではなかったとしてもある程度許容する、我慢する」ことはあるだろう。入社して未経験の社員が思ったように仕事が出来ないなんてことは会社としても想定の範囲内なのである。
だから、入社してすぐのうちにやってくる周囲からのバッシングは軽く受け流す必要があるのだ。
筆者の経験が参考になればと思う
といっても、筆者の場合は受け流すことが出来なかった。短気だし、おべっかも使えないタイプだ。我慢出来ないと感じたらすぐに辞めようと考え、転職の準備をする方向で生きてきた。
このページで筆者の過去を書いてみたのは、同じように悩んでいる人がもしかしたらいるかもしれないという考えからであった。筆者のようにしたらいいとは言わないけれど。
そして、半人前扱いされる問題について、はっきり言って解決策は無いと思う。
すなわち、周囲の上司や同僚たちに従順に従うか、それが嫌だったら退職するかしかないということなのである。
(中には言外に威厳を醸し出せる人もいて、そういう人は仕事が半人前とか、突っ込み所満載だったとしても、攻撃されないだろう。「こいつに何か言ったらヤバい」と他人に思わせる威圧感とか威厳といったものだ。そういう人ならそもそもこんな問題には悩まないだろう。繊細な人、組織に溶け込めない人、自己主張できない人、責任感が強くて真面目な人、そういう人が会社内での攻撃のターゲットにされやすい。)
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