社内ニートで金がもらえるのはホワイトカラーに特有の現象かもしれない
筆者はバンコクの日系の大手ITベンダーにて、社内ニートを経験した。試用期間で解雇されたのだが給料はしっかりと支払われた。その会社では1か月分の給与が余分に支払われて驚いた記憶がある。
ほかの職場でも社内ニートだった時期もあるかもしれないが、自らが社内ニートであることを自覚し、周囲からも、「積極的に仕事を取りに行って働かない姿勢」を批判されなかったのはその会社だけであった。
キャッシュに余裕の無い中小企業の場合だと、社内ニートだなんだと言ってチンタラやっていたら、すぐさま上司や社長の叱責が飛んできて、精神的な追い込みをかけられることは必至である。
社内ニートをやってそれでも給与をもらえるのはホワイトカラーの職種に特有のことだと思っている。それから、ある程度、大きな規模の企業でないと、社内ニートは存在すら出来ないだろう。
ブルーカラーの仕事はサボりにくい
ここでは、また別の側面からこの問題を考えてみたい。これは、筆者の仮説ではあるが、「ブルーカラーの仕事で社内ニートにはなれないのではないか」ということだ。
筆者は日本にある某メーカーにて、営業マンをしていたことがある。その会社では、「現場研修」ということで、工場内の機械のそばで、オペレーターの働きぶりを観察したり、実際に機械を動かすなどをした。
そのときに、中途入社で現場作業をする人が入ってきた。その人は私と同時期に入ったのであるが、未経験者ということもあって、機械操作がうまくできず苦労していたようだった。
会社の方針だったのかもしれないが、現場の作業者というのは、誰かが手取り足取り機械のことについて教えてくれるということはなく、新入りは基本的に先輩や上司の仕事のやり方を目で見て盗むこととされていた。まさに職人的な世界である。
なるほど、そういう職場では、積極的に自分から動いて、仕事をするようにしなければ、いつまでたっても社内ニートのままかもしれない。
おそらく、自分が機械のオペレーターで入社して、機械操作がいつまでも出来ずに、上司からの指導も無く、工場の現場に一人、放置されていたら、いたたまれなくなって辞めてしまうだろう。
また、自分専用のデスクが与えられている内勤のオフィス労働とは異なり、工場で作業する仕事だったら、手軽に暇つぶしをすることもできない。
その工場の管理者に事情を聞いたことがあったが、オペレーターで入った新人が一定期間働いて見込みが無いと会社から判断されると配置転換になる、ということだった。それでも仕事が出来ない場合は自然に自分から辞めていくらしい。
なるほど、うまく出来たシステムである。田舎の工場だったし、世間の目もあるだろうから、仕事が出来なくても会社に居座り続けるなんていう芸当も簡単には出来ないだろう。
「△△村の彼奴は、あそこの工場に勤めてるらしいが、仕事もしねえで工場でノラクラ遊んでいるばかりだとよ!」
「ほー、そうか、××さんの息子さんか!」
こんな会話が村人同士で交わされるとしたら、やはり、狭い村社会に所属していたら、おちおち社内ニートも出来ないわけである。
仕事に適正のある人間だけが淘汰されて職場に残るわけである。
ブルーカラーの仕事は成果が見えやすい
それと、ブルーカラーの仕事の場合、自分がやるべき仕事の範囲がはっきりしていて、仕事の成果が見えやすい。誤魔化しが利かないということもあろう。たとえば、工場の生産現場においては、機械を操作しながら、「今日は何個生産する」といった数字の目標があって、それに対する結果というのはどうやっても誤魔化せないものだ。
自分が関わった仕事において、例えば不良品が何個出来たといった事柄についても同じである。
仕事が一人で完結しやすいのもブルーカラーの仕事の特徴
また、他人に迎合しない人が多いのも職人の世界にはよくあることである。それは工場の仕事であっても、その人しか出来ない仕事があれば、その仕事を盾にして、会社に対して、あるいは周囲の人間に対して威勢よく接することも出来る。
件の工場の例でいえば、その工場にはマシニングセンタがあったが、それを操作するためにはNCプログラムというのを理解しなければならず、工場には一人しかプログラムを理解していて機械操作が出来るひとがいなかった。すごく武器になる専門知識だなと思ったものだ。
あるいは、工場に何十年も勤務している職人であったが、手先が器用らしく、汎用旋盤を使って、複雑な形状の冶具を手作りできる人もいた。
彼らに共通しているのは特定のスキルを持っているということと、その人でしか出せない仕事の成果ということだろう。
ホワイトカラーの仕事ではパフォーマンスも必要になる
翻って、オフィス労働、ホワイトカラーの社内ニートであるが、やはり、現場作業を通じての自然淘汰のような追い出しと較べれば楽なものである。
オフィス労働においては、自らの仕事というのがオフィスの他人とつながっていることがほとんどであり、仕事の成果が見えにくいということもある。地道にコツコツと誠実に仕事に取り組む姿勢を見せるよりか、周囲とワイワイガヤガヤ議論しながら仕事を進めて行った方が、上司には仕事をやっているように見えるだろう。
PC作業をするときはキーボード打ちの音をわざと大きくするなどして、「いかにも真剣に仕事してます!」というアピールをする必要も出てくる。
いずれにしても、オフィス労働の成果は明確な数字になって表れにくいものが多いので、上司や経営者からの評価を上げるために、各種のパフォーマンスがなされるのである。
ホワイトカラーの現場でも、周囲の人間と比較して自分があまりに仕事が出来なかった場合、自分自身に対して情けなさを感じることはあるかもしれない。あまりにも仕事が出来ない新入社員に対して、上司は徐々に仕事をアサインしなくなるかもしれない。
そういう過程においても、真面目に捉え過ぎたら酷く傷つくこともあろう。場合によっては会社にも行けなくなってしまうかもしれない。
しかしながら、ホワイトカラーの仕事で成果を出さずに、それでも給料をくれるとしたら、やはり、それは相当に恵まれていると思う。